3.役員の退職金を生命保険で有利に準備する方法
会社の経営トップには、死亡時のリスクがかなりあるということは、ほとんど認識されているので、大きな保険がかけられているケースも多いようです。
しかし、経営トップが死ななくても、資金的なリスクが将来発生することがあります。
いうまでもなく、どこかで勇退する際の役員退職金もその一例です。
長年会社を大きくするために寝食を忘れて仕事に打ち込んでこられたことに対する、ご褒美をもらうのは、全く当たり前で、税務上も優遇されていますので、多くの会社が役員退職金制度を持っています。
最近従来の制度を見直し、ストックオプションや役員報酬、役員賞与に吸収しようとする動きもあるようですが、その多くは大企業であって、中小企業やオーナー会社ではまだまだ役員退職金の果す役割には大きなものもあり、役員の期待値も高いものと思います。
従業員には年功に応じての退職金制度がありながら、役員独自の退職金規程を持たない会社もあります。
お手盛りということになると、いろいろ税務上の問題もありましょうから、やはり役員用にきちんとした規程を作っておく必要があります。
さて役員退職金制度を作る際、どうやって金額を決めたらいいのでしょうか。
一般的には、会社が退職金を損金経理できる額を想定しておかれたらいいのではないか、という気がします。その計算式とは以下の通りです。
役員退職金の損金算入限度額=
最終月額役員報酬の額×役職在位年数×功績倍率+功労加算(30%まで)
(功績倍率は役職によってランク差あり 社長は3倍位が標準)
簡単に計算しますと、最終月額が200万円で、役員に35年あって、社長で退任した方(功績倍率3倍で設定)の計算は、功労金まで加算しますと、実に2.6億円までは退職金を損金経理できるのです。
実際の支給額が、それより多かったり、少なかったりした場合、少ない場合は特に問題は発生しないと思いますが、多い場合、おそらく税務署は同業他社との比較において、社会通念から、基準を超える額を損金不算入ということにすると思われます。
とはいえ、いくら貰おうとそれは勝手な話ですから、理論上は会社がその分を有税でやれば、いいことです。
しかし、通常はなにも退職金を有税で払う必要はないと思います。もしそうするのであれば、会社をその時点で清算するといった特殊なケースで活用する話になりましょう。
詳細は法人税法第36条(過大な役員退職給与の損金不算入)と法人税法施行令第72条(過大な役員退職給与の額)をご参照下さい。
退職金をもらった社長個人の税金については、大変優遇されています。退職金は所得税の10区分のうち、退職所得という区分に分類されますが、これは勤続期間に応じた基礎控除があって、さらに控除後の残りを半分にするといった大変な税制上の恩典があります。と同時に他の所得と合算せず、退職所得だけで課税が終わる分離課税になっていますので、トリプルメリットがあります。
先ほどの事例で、退職金を2.6億円もらった社長の、所得税をざっと計算しますと、手取りは実に2億円です。
このように、退職金にかかる税金は大変優遇されているので、ぜひ退職金を取るようにすべきなのです。再度退職金の有利な点をまとめてみます。
(1) 他の所得と合算せず、それだけで課税される
(2) 基礎控除があり、長く勤めた人ほど非課税枠が増える
(3) 10種類ある所得のうち、一時所得、長期譲渡所得、退職所得は所得を半分にして税金計算をする
なお、役員退職金を経費にできるタイミングは、株主総会決議で退職金額が具体的に確定した時か、実際に退職金を支給した時のいずれかということになりますので、株主総会で金額を決議しておけば退職金というおカネを支給しなくても、未払い金で計上しておけば、損金として認められるのです。
このように、退職金は大変有利な側面を持っていますが、その資金は相当な額になってしまうため、予め資金の準備が必要になります。税務上は一切引当ててきな優遇措置を持っていないため、なにも手を打たないと、退職時に大きな資金を用意するというキャッシュフロー上の問題と同時に、退職金という経費の発生に対して、損益計算書上大きなマイナスが出てしまうという経営上の重大な問題にも繋がっています。
これを避けるには、毎期一定の役員退職金を有税で引当てるか、損金算入可能な生命保険を活用して、死んだ時の死亡保障と同時に生き残った時の解約返戻金を利用するということが望まれます。つまり、死亡時には死亡保険金を死亡退職金の原資として受取ると同時に、何もなければ解約返戻金を勇退退職金の資金準備ということが、保険の機能として可能だということです。
当然、死んでから、もらうのが保険の本来の機能ですが、その時には保険として役立ったとしても、死なずに生き残ったときには、全て保険料というコスト(死に金)になるケースが多いようです。それは丁半博打でいうなら、片一方(死ぬ方)だけに場を張るようなもので、死んだら天国・生き残ったら地獄ということになってしまいます。
これからの保険の考え方は、為替ヘッジではありませんが、どちらに転んでも、きちんと目的に叶う手当てができることが、理想ではないでしょうか。つまり、亡くなったときの死亡保険金としての効用と、生き残ったときの退職金原資としての効用と、バランスの取れた方法論があってしかるべきかと、思います。
それには目的に合わせた保険種類を、きちんと選択するということが大事です。
とはいえ、いろんな保険の種類があって、何がなんだかさっぱり分からないという方も多いことでしょう。
「終身保険」とか、「定期保険」とか、「養老保険」という保険のそれぞれの違いがそもそもよく分からない方もいることでしょう。
これはいずれも、保険の基本形です。
死んだ時に保険金を出すという意味では、いずれも同じ機能を持っていますが、死んだ時に出ると同時に、死ななくて解約時や(養老保険のように)満期になって資金を取り出す方法もあります。
簡単に説明しますと「終身保険」とはまさに読んで字のごとく、一生涯の保障を約束するものです。
「定期保険」とは銀行の定期預金とは異なって一定期間経って利息が付与されてくる保険ではありません。
これまた字のごとく、期が定まっている保険ということです。つまり10年とか、65歳までとか予め期間を決めて保険をかけます。
更新できるタイプもありますが、年齢があがるたびに保険料もアップします。最近は95歳定期とか100歳定期といった長期のものも多く出ています。
最後の「養老保険」は死亡保険金と満期保険金(定期と同じように設定)が同じになるようにした、貯蓄タイプの保険です。
保険の分かりにくさは、このような保険種類のネーミングのせいもあると思います。
(保険会社によっては保険にペットネームをつけているものもあります。)しかし、以上の3つの分類で考えれば、整理がつくと思いますし、目的別にどの保険が最も効果的かを知っておくことは大事なことです。
要は保険も金融商品の一種ですから、期間対応をどうするかということで、種類が分かれているということです。
難しく分類していくと、死亡保障と生存保障と期間を組合わせたものということになりますが、実際には「いつまで保障があるか」という違いでいいと思います。
ただその期間設定で経理処理が違ってくるというのが、厄介な点です。
さて、法人の生命保険の最大メリットは、一定のルールに則って、経費処理することが認められているということです。
そして、単に経費で落ちるというだけではなく、一定期間経過すると、オフバランス化された資金が「死亡保険金」または「解約返戻金」として、会社に還流させることができるということです。
死亡保険金の場合は任意にとはいきませんが、解約は会社の任意で行なえますし、かなり意図的計画的なプランが可能となります。
つまり役員の退職時に合わせて、解約返戻金を退職金原資とし、保険料の名目で合法的合目的的に退職引当てが可能であるということになります。
その際、最も重要な視点は、損金算入の割合の高いもの、解約返戻率の高いもの、勇退時にちょうど返戻率のピークを迎えるように商品選択をすること、などですが、実際に直面する最大の難しさ四十数社もある生命保険会社の中から、目的に最も叶い、かつ最もコストパフォーマンスの高いプランをどのように組合わせるかという事に尽きます。いわば、商品化戦略の問題です。
それぞれのケースに合わせて、最も会社にマッチしたプランニングをするには、やはりそのような経験の豊富な保険のプロフェッショナルに設計を依頼することが、最も近道だと思われます。
単に商品比較だけではなく、会社の状況に合わせて、様々な観点から企画書を立案してくれるパートナーを見つけることが、問題解決の最もよい手順になります。(詳細は34保険加入時の代理店の選び方参照)