5.財務リスク回避を図るための知恵
役員保険を活用してキーマンの保障と勇退退職金を準備するという、きわめてバランスのよい生命保険の活用方法があるということに加え、企業の財務リスクに備えることができるというのが、法人保険の隠れた活用方法です。これは松下幸之助が言っている「ダム経営」そのものといえます。
本来の意味合いは、事業をするにあたり、余裕のない、資金的にぎりぎりでことを進めるのではなく、十分な余裕を持った経営をしなさいということなのですが、ダム機能のうちの貯水ということを考えると、別の面でも必要な教訓だと思います。いうなれば、利益のうちの一部をきちんと留保しておいて、いざ日照りが来たときにダムの水を放流するような考え方です。会社の利益や資金といった経営資源がまさに枯渇しようとする時に、そのダムの機能が働いて、非常時の収益と資金が外部から注入できるということになれば、退職金原資の確保などという当初の目的以上に大事な局面ではないでしょうか。そういった非常事態に備えた、きちんとした手当て、手段が講じられるかどうか、企業にとってはまさに生死を分ける時ではないかと思います。
現在、急激な景気後退に対する経済対策として「欠損金の繰り戻し請求」が復活しましたが、前年1年以内の法人税に限られること、還付請求した場合には必ず税務調査が行われること等から、その実効性に疑問が残ります。 つまり生命保険が単に「経営者の」生き死に、の問題だけを解決するものではないということです。今の日本の税制では、いくら利益が出ている時に多額の法人税を納めていたとしても、企業が赤字になった時に過去の税金を還付してくれるということはありません。これが逆のケース(赤字の会社が黒字になった場合)では、7年間の「欠損金の繰越し」が認められていますが、赤字転落といったケースでの「欠損金の繰戻し還付」は1992年以降運用停止されています。 現在、急激な景気後退に対する経済対策として「欠損金の繰り戻し請求」が復活しましたが、前年1年以内の法人税に限られること、還付請求した場合には必ず税務調査が行われること等から、その実効性に疑問が残ります。 これも一種のリスクとみなすことができるでしょう。いうなれば「税制リスク」と呼んでいいのではないかと思います。会社経営そのものが、利潤の追求である以上、その利益に課税する課税庁との攻防は避けて通れません。納税をいかにスムーズかつ平準化するか、これは大きな課題です。税金をいかに安く上げるか、節税するかという、単純な話ではありません。ポイントは、無駄のない納税、資金の読める納税を、どう実現するかということです。そのためには、利益をいい意味で会社がコントロール(調整ではなく統治)しなくてはなりません。
バブルのころのように、売上も利益も絶好調でありながら、それに伴って投資や在庫が膨らみ、資金需要が増すばかりという状況もありました。当然決算をしてみると、利益の伸びも大きく、当然税金の額も増大するのですが、納税資金がない。会社拡大のために使ってしまっているわけです。このような、よくいう黒字倒産というのが、この時代に多く発生しました。要は、売上利益と資金のバランスが取れていないということです。まさに影のように忍び寄ってくるのが、税金ということです。変な例えですが、税金も一種の借金です。日本でビジネスをするにあたり、政府から借金をしていると考えてみてはどうでしょう。店を構えただけで固定資産税という場所代を取られ、儲けがでたらそのうちの何割かの分け前をよこせといい、死んだらその権利を召し上げるぞ、いやなら後継者が金払えという、なんとなくそんなイメージにつながります。
税金というのは誰でも払いたくないものです。しかし社会生活をしている以上、避けて通れるものではありませんから、そこでは無駄な税金を払ったり、払わなくてもいいものを払いすぎたりして、自分で自分に不利益を蒙らせないよう、知恵をしっかり働かす必要があります。
その意味では、経費で落とすということが、会社では大事なことだと思う方も多いことでしょう。できれば保険も経費で落とした方が、メリットがあると、当然考えたくなります。まさに1円の利益を出すにも、荒利を少しでも確保し、諸経費を抑える日々の努力の賜物ですから、そうやって、やっとできた利益の4割方、分け前を持っていかれるというのは、確かに気にくわない話です。
だから保険も経費で落とせる方がいいと思うわけです。そして、ダムに貯しておいて、イザという時に放流したいと考えます。そのことは、とても大切なポイントだと思います。ダム経営の基本はそこにあるのですから。
ただ保険料を経費で落とすということは、そのこと事態に意義があるのではなく、きちんと貯水できることがメリットなのですから、高率の返戻金が確保されなければ、意味がありません。例えば旧タイプの保険種類の中には、全額経費で処理できるといいながら、解約返戻率が7割しかないようなものもありました。これなどは、税金を繰延べるといいながら、実際には国に税金を納める代わりに、保険会社の利益に貢献する、といった皮肉な結果になってしまいます。
期末に相当の利益が見込まれる時に、税金を払いたくないために、あわててやってしまいがちなのが、宣伝費を増やしたり、期末賞与を出したりするケースです。翌期以降の売上に貢献できるメリットはあるかもしれませんが、根本的に「税金を押さえる」という単純な発想からきている場合が多いようです。あくまでダム経営は、資金という水をプールしていくことを意味していますので、最初から放水してはいけないのです。
経営者としては、今だけを考えないで、中長期的観点からキャッシュフローを見据える必要があるのではないでしょうか。キャッシュフローが最も経営上大事だということは重々分かっていても。実際に資金を残す為の智恵は、経費削減にまず走りがちです。電気をこまめに消灯するとか、トイレの水を少なくするために特殊なバルブをつけるとか、それもとても大事なことですが、細かい点ではけちけちしながら肝心なところで、漏水状態になっていることがよくあります。その理由は、どうもよくわからないといったジャンルに対しては、むしろ無頓着になるといった類です。
その際たるものが保険ということになるかと思います。そうならないよう、よく分からないといって、あやふやなままにしておかないことではないかと思います。保険料は、蛍光灯の電気代どころではないのですから。
財務リスクを回避するための、含み資産の形成には今や法人生命保険の正しい導入しか方法が無いといってもいいと思われます。