6.節税を目的とした法人生命保険の導入手法
会社が決算期に、法人生命保険契約を結び、年払いで保険料を払うと、これは法人税法基本通達で一括損金経理が認められますので、この方法で会社の利益を落とすことは、一般的には「節税」プランと呼ばれています。
しかし現実的には「真の節税」ということはありえない話で(もしそんなことが許されれば、誰も税金を納めない、困ったことになります)、あくまで課税を先送りしているというだけに過ぎません。全額経費計上の保険というのは、解約した際に保険解約益が逆に全額収益として会社に取りこまれ、そこで課税が発生する仕組みなのです。要はその時点で、何も目的を設定しないまま加入していたいわゆる節税保険は、遅ればせながら課税される、ということになります。
つまり、何にも分からないまま、単に節税というだけで保険に入ると、解約した時、思わぬ落とし穴に嵌ってしまうこともありえます。 ところが、解約時に、経営トップの退職金とぶつけたらどうなるでしょうか。
節税のメリットを受けた解約返戻金と、退職金が相殺されて、あたかも会社の含み益が、そっくりそのまま個人の退職所得に移転されたということにならないでしょうか。(現実には保険の解約と、退職金の支払いは全く別の取引ですので、厳密に言いますと保険解約返戻金を退職金にするということではありません。)しかも個人の退職所得は、2分の1分離課税と大変優遇されています。ただし、このようなプランが機能するには、一見掛け捨てに思える定期保険が、実はトップの退職時に合わせて高い解約返戻率で解約返戻金を出すということが必要です。保険を活用することで、全額損金メリットと、最高返戻率、勇退退職金の税制優遇といったことが、うまくバランスよくプランニングされることが前提になります。
そのためには、できるだけ多くの保険会社のさまざまな保険種類を、最も効果が出せるようシミュレートする必要があります。保険会社によっては、タバコを吸う、吸わない、体重と身長のバランス(BMI)をチェックする、自動車運転免許証のゴールド免許の有無等々で保険料を優遇するものもあります。そのような仕組みをきちんと有効活用することも大事です。さらに保険に加入する際に最終関門として大きく立ちはだかるのが、健康診断(診査)ということになります。
血圧が高かったり、糖が出たりしたら、保険に加入するのが大変難しくなります。
保険というのは元来誰にでも門戸を開いている、非常に購入しやすい商品でありながら、年齢と健康という2つのバーを越える必要があります。つまりあまりに年齢が高いと、死亡リスクの関係から、当然保険料がかなり高くなってしまいます。それと保険料の支払い年数が短いわけですから、輪をかけて1回あたりの支払い保険料の金額を押し上げます。
健康に関していいますと、年齢が低ければ、その診査内容もあまり厳しくないわけですが、歳を重ねるに従い、人間あちこちにガタが来ますので、これまた当然チェックが厳しいのです。最近健康状態に関係なく、誰でも入れる保険というのがありますが、実際には保険金額に制約があったり、加入目的が法人保険には向きませんので、注意が必要です。(そもそも法人契約は難しいと思われます)
保険には健康診断がつきものですので、高齢になると、あちこちガタが来て、入れない場合も多いのは事実です。一般的な診査(健康診断)では、金額により異なりますが、血圧測定、尿検査が第一関門です。更に高額な場合は、心電図の検査や億単位の保険金額になると血液検査といった項目も入ってきます。しかし、この場合でも、保険金額によって健康チェックの関門が変わるということは、裏を返して言えば、健康に自信のない方が高額の保険に加入する場合は、保険会社を複数に分散することで、より低いバーで診査を受けることができるということになります。保険金額に応じたリスク回避を保険会社は取るわけですから、複数の保険会社で加入すること自体、特に手続き上問題になるわけではありません。1社で2億円ではなく、5千万円づつ4社でということが可能というわけです。
1社でやれば血液検査までしなければいけないものが、分散することで、血液検査どころか心電図も不要ということも、保険会社や契約年齢によってはありえます。ましてや、高齢になれば、普通に健康診断を受けますと、全ての項目が正常範囲内の「完全無欠の方」は少ないと思います。保険医学はなにもそこまで要求をしているわけではないので、保険金額によって関門を設けているわけです。この設定されているバーをきちんとクリアできればいいのです。診査は、各社のこのチェックポイントを十分考慮する必要があります。
繰り返しになりますが、法人保険は加入目的を明確にして、その目的に最もふさわしい選択肢を比較検討することで、「死んだ時も」「生き残った時も」または、途中で目的外の非常事態にも備えのできる、財務リスク回避手段ということなのです。節税をする意味合いは、生き残った際の、解約返戻金をどのように利用するかということが、まずはテーマとしてあるべきです。利益が出たからとりあえず節税では、利益が出なくなった時に、経費で落とす意味が無く、また保険料も払いにくくなるので、その保険を取り崩してしまう方法しか選択できなくなります。その結果、税金も納めなかったけれど、低い解約返戻率で資金も戻ってこなかったのでは、何のためにそんなやり方をしたのか、わけがわからなくなります。
節税ではなく、あくまで利益を繰延べるだけであることをまず理解し、その繰延べたり益をどのように「着地」させるかを想定しなければなりません。役員退職金、生産設備更新の為の除却損や初年度減価償却、商品や棚卸在庫の廃棄損、損害保険でカバーできない未知なるリスク、等々生命保険で繰延べた含み益は、さまざまな用途に使えます。
ではどのようなプランが最も良いのか。それは簡単です。使用目的に合わせ、まずレンジ(射程)を設定することが第一です。例えば10年後の勇退に合わせるとすれば、10年後に最も解約返戻率が高い商品の選定が望まれます。要は、損金性が高く(全損)、着地点で最も返戻率の高い商品を、組合わせる事に尽きます。そのための商品化戦略は、経験豊富で多くの保険会社の商品に精通した、プロの保険代理店をまずはパートナーにすることでしょう。