7.自社株問題対策プラン
自社株の相続は、非常に頭の痛い問題です。会社の財産ではなく、オーナー個人の財産である自社株は、相続時に一定の相続財産としての評価を受け、相続人に相続税として課税される仕組みです。在任中は会社の経営を安定させるために、トップの持っている会社の株式の保有割合を、おそらく3分の2以上、いやかなり100%近い数字でシェアしておられるケースが多いと思われます。このあたりが、オーナー系企業の宿命ともいえる事業承継の難しさなのだと思います。
オーナー社長個人の相続問題は会社には関係ないといいながらも、後継者である相続人に大きな税金が課せられることで、他に納税資金が無い場合、自社株は納税資金化させるため散逸の危険性を内包しているわけです。仮に相続税納税の問題がなくても、代償分割(手持ち資金での調整)のような上手い方法を取っていない場合、兄弟姉妹で自社株を均等に分け合うというような事態が生じてしまいがちです。そうなりますと後継者の経営権に大きな問題が発生することになります。このような事態を避けるため、どうしても事前に手を打つ必要があり、ここでも法人契約の生命保険が活躍する場面となります。
個人で終身保険に入っていれば、その資金で相続税を払うことになるので、会社で保険に加入しておく必要はないという考え方もあります。しかし個人で終身保険に加入するというのは、個人の所得税控除後の保険料負担ということになりますし、オーナー系企業の場合、法人と個人の自社株式財産評価の線引きも難しいので、ここでは法人を上手く生かすやり方として、法人で終身保険のあり方を考えてみたいと思います。(個人と会社が一体ということであれば、本来保険料を負担しやすい方が、契約主体になればいいということが言えるのではないでしょうか。)
「経費計上の保険」で在任中の「キーマン保障」と「勇退退職金準備」の両立を図りながら、さらにそれとは別立ての「終身保険(資産計上)」を走らす方法が一般によく行なわれています。そしてその終身保険に、相続や事業承継といったリスクを引き受けてもらおうという考え方です。(保険料払込は勇退時までとします)これは「退職金2度受取りプラン」と言われている手法で、仮に65歳でご勇退するといった場合、全損型の保険を勇退時に解約し、退職引当金としての効果をうまく利用し、まずは第1回目の退職金を受取ります。この退職金は、オーナーの老後生活を稔り豊かにすることが前提ですので、基本的には相続に関係なく消費していただくことが前提です。
さて勇退の時点では
(1)代表権を外れる
(2)役員報酬を2分の1未満にする
(3)実質的に代表取締役の実務を引き渡している
といったことがあって初めて「みなし退職」となりますので、ご留意下さい。
そののち、亡くなるまで平の取締役として、会社に残っていただき、後継者の補佐をしていただきます。
そして終焉を迎えますと、どうなるかといいますと、当然ですが、必ず会社に死亡保険金が入ります。
これを
(1)2度目の退職 金である「死亡退職金」として支給する(この場合、税法上はみなし相続財産となるので退職所得の計算は行わない)
(2)相続人が相続した自社株を会社が購入する際の資金として活用する といった方法で、相続人(会社の事業承継人)がオーナーから引き継いだ自社株に発生する相続税を、結果的には会社が負担するということが可能になります。
小さい会社だし、資本金もほんのわずかだから、事業承継はあんまり関係ないという経営者も多いのですが、資本金の多い少ないはあまり関係がありません。資本金が1千万円であっても、社歴が長く長年順調に社業を伸ばしてこられたこともあって、純資産(B/Sの資本の部+資産の含み益)が大きく膨らんでしまっており、1株あたりの評価が何十倍、場合により何百倍というケースもあるのです。正確な相続財産の評価は、自社株のみならずその他の個人資産(土地、ゴルフ会員権、書画骨董、現預金 等々)の合算になり、また現在価値ではなく死亡時の価値ですから、なかなか正確に把握するのは難しいので、資産税に強い税理士の助けが必要な場合もあるようです。このあたりの数値を踏まえ、保険でカバーすべき金額を算出するのが望ましいと思います。
死んでから資金の準備をするのは、手持ち財産の処分か、相続税納付の為の借金か、いずれにしろ難しい問題があります。仕方なく延納という方法で切り抜ける方法もありますが、この低金利時代でも延納の場合、相当の利子税(財産の種類により3.6~6.0%)を負担しなければいけないことを考えると、事前にできることにきちんと手を打っておくことは、経営基盤の安定化のためにも、ぜひやらなければいけないことです。
相続や事業承継で最も難しいのは、相続人がこのようなスタンスに立っていない、極論すれば死後のことは、残されたものが考えればいいという、まるで人ごとのようなことを平気で言っている経営トップが君臨しているケースです。何とかしなくてはいけないとは漠然と思いながら、具体的には何にも手を打っていない経営者も多いことでしょう。このような場合、なにかきっかけが必要です。自身が父親の死亡年齢に近づいて来たとか、周りの知り合いの経営者が急逝したとかが、結構契機になる場合があります。そのときに、天の時を感じられるかどうかという、経営センスの問題ともいえましょう。
オーナー会社にとって、自社株の問題は頭の痛いことですが、それなりに手があります。退職金ニ度受取りに関しても、別にニ度受取らなくても、最初に受取る時にキャッシュと終身保険を受取るという考え方もできます。保険契約というのは、被保険者(保険の対象者)以外は自由に変えられます。つまり法人で契約して保険金も法人が受取るという契約を、契約者と受取人双方とも法人から個人に変えられるということです。退職時に、会社契約から個人契約に替えるということは、保険を退職金として支給するということと同じ効果になります。むろん、退職金をキャッシュで出してもらって、その資金で法人契約の保険(被保険者は経営者自身)を買い取るという方法も可能です。その時の税金問題はどうなるかといいますと、まず、勇退退職金代わり又は一部として保険を個人に渡す(名義書換する)場合、その際の保険の価値は解約返戻金で評価することになります。会社としては終身保険の保険料を全額保険料積立金という固定資産に計上していますので、その固定資産を取り崩して退職金として経費処理します。
もちろん保険であっても退職金ですから、受取る方は通常の退職金をもらったのと同じ退職所得税を負担しなければなりません。当然、非課税枠や2分の1分離課税で、かなり税金は安くなります。ここで、解約返戻金が保険料累計より少ない場合、これは会社の保険解約損失となり、多い場合は収益を立てる必要があります。解約返戻金が多く出るタイプと、少なくなるタイプでは、会社にとって影響があります。しかし、多く出るタイプがいいのか、少なくなるタイプがいいのか、個人への譲渡という観点に立つと、判断が分かれるところです。多く出るということは、保険でありながら投資信託としての効果も得られたということですから、それはそれで会社にとってはハッピーなことになりましょうし、少ない場合、その差額は会社の損失になってしまう一方、合法的に将来価値の高い保険資産を低廉譲渡できるメリットが出てきます。つまり社長にとっては退職所得ということで相当の減税効果が得られることになります。
会社にとってメリットがあるということと、個人にとってメリットがあるということと、保険の中に二つの要素があるというこということになりますが、いずれにしろ、自社株対策ということで保険を活用する方法としてはいくつかバリエーションがあって、大変効果的です。