8.資産計上の生命保険で節税できる手法
経費で落とす保険というのは損益計算書上利益を圧縮しますので、節税には即効性があるといえるかもしれません。しかし、全額資産計上の保険でも、最終的にはほぼ同じような効果が得られます。亡くなったケースと、途中で解約したケースでは、少しパフォーマンスが異なるかもしれませんが、その局面での経理処理上は、経費で計上した保険では保険金全額が収益となるのに対し、資産計上の保険では保険金(解約返戻金)―資産計上累計額=収益となりますので、結果的にトータルでは全く同じ課税所得ということになります。具体的に言いますと、毎年1千万円の保険料を全額損金で処理しながら10年支払った段階で、死亡保険金2億円を得た場合、10年間で1億円の損金、そして2億円の保険金(益金)ですから差引き1億円のプラスです。これを資産計上型で同じ保険料を負担した場合、10年間で合計1億円の資産、保険金2億円が入って来た時には資産の取崩し1億円と益金1億円を経理処理します。その結果1億円のプラスです。どちらも最終的には同じ1億円という収益が発生します。
つまり先に経費化しておくか、あとで保険金から累計の資産計上分を差し引くか、の違いということです。どうしても経費で落としたいというのは、あくまで経営者がイメージにとらわれているということのようです。よく保険で節税できるといっても、結局は、経費計上のタイミングが入口か出口かということでしかない、ということなのではないでしょうか。
経費で処理したものの反対給付は収益ですが、資産で処理したものの反対給付は資産の取崩しということを考えますと、先取りか後取りかだけの違いのようです。取引先の経費を立て替えるような場合、あとで戻してもらう時には、その経費の戻り金で処理しますし、投資したものがそのままの額で戻ってくれば、キャッシュが一旦投資勘定(資産)に上がってまた預金(資産)に戻ってくるということで、結局は同じことになります。そこで問題になるのは、戻る時に少なく戻ってくる場合です。その際、当然戻りが低ければ低いほど会社にとっては損失が大きくなります。
保険の場合、必ず最後に保険金というキャッシュフローを生み出します。途中で意図的に解約して、解約返戻金を受取ることも可能で、一般的にはそれが多いほどパフォーマンスが良いとされます。しかし、この返戻率が低い状態で会社から個人に譲渡または退職金として契約者変更した場合、解約返戻金が低ければ低いほど、保険金とのギャップが大きくなって、個人にとっては大きなメリットになります。つまり将来大きな保険金が出る契約を退職金で受取ると、実はその評価が大変低い解約返戻金でカウントされ、退職所得税がかなり少なくて済むということにもつながります。例えば経営者が50歳で加入した2億円の終身保険(65歳払い)を65歳時に勇退する際に、退職金として受取ったところ、払い込んだ保険料1億円だったものが解約返戻金5千万円しかなかったという場合。将来価値2億円の保険商品を5千万円で受取ることができます。しかも退職所得ですから、退職所得税は基礎控除が使えて2分の1課税です。ほとんど税金負担無しで、相続対策ができてしまいます。
こういう方法を取るには、解約返戻金が少なくなる終身保険を選ぶ必要があります。具体的な商品としては、変額終身保険で意図的に運用が悪くなるようなファンド設定をするということがまず挙げられます。運用を良くするというのが通常の発想ですから、その全く逆をやるわけです。そのほかのプランとしては、低解約返戻型の終身保険を使います。これは、保険料納付期間中は解約返戻金を7割に押さえるといった条件のついた終身保険で、勇退峙までの保険料払込にしておけば、その間会社は保険料を資産で積んでおいて、低解約返戻金の価格で退職金として社長にこの保険を譲渡します。その際会社は資産計上額と解約返戻金の差額を保険解約損として経費計上します。ここでは会社は資産で計上したものの一部を費用かできることで、ある意味節税効果が発生します。譲渡された社長は、それ以降保険料を負担することなしに、将来価値(保険金)の高い資産を持つことが出来るわけです。
会社にとってのメリットは一言でいえば、全額資産で計上してきた終身保険を最終的に費用化できるということになります。そこまで積んできた保険料積立金と解約返戻金の差額が解約損ですので、そこで費用になる、言い換えれば定期保険で毎期費用化すべき額をまとめて全部一遍に費用化するといってもいいでしょうし、結果として、終身保険が費用で落とせた、ということにつながります。
このような手法で、会社の資金と利益計画と、事業承継・相続とがかなりうまく計画できます。今までの全損型の保険で節税という呪縛から開放されるのではないでしょうか。 保険の営業にはいろんなトーク(話法)というものがあります。その中でも代表的なものが、全損計上可能な保険を使った節税話法です。でもよくよく考えてみれば、そんなことが許されるわけがないのです。節税の極意はそんなに難しくありません。法人でも個人でも同じですが、(1)非課税枠、控除枠を利用する (2)連年で使えるものは毎年使う (3)税率の低いものへシフトする (4)分散を図る(課税対象者、年度) (5)異なる税区分へ持っていく などが基本です。そこで資産計上の保険も実は最終的には経費化出来るという智恵があれば、随分選択肢が広がります。