11.同じ生命保険なのに保険会社によってかくも保険料が違うとは
生前相続の一例として、生前贈与を使って、それを保険にシフトするプランをお教えしましょう。
贈与といいますと、一般的には税率が高いというイメージがありますが、年間310万円までですと、比較的有利に贈与できます。贈与税基礎控除額の110万円を差し引いた残りが200万円までですと、10%税率ですので、310万円の財産移転で税額20万円(対贈与額6.5%)、手取りで290万円ということです。税率6.5%を見ていただいても分かるように、消費税並みの税率で資金移転ができるわけです。これを毎年行なうと、非課税枠と10%税率を毎年利用できると同時に、父親の現預金をどんどん減らせますので、相続税の計算上は大変有利になります。そしてさらに話はこれに留まらず、これを保険にシフトするというところへ発展します。
つまり、父親から母親、子供、子供の配偶者、孫といったところへ年間310万円づつ贈与して、それを保険料の原資にして、保険に加入するということです。例えば子供に310万円贈与して、手取額290万円を年間保険料として、父親を被保険者にした保険に加入しますと、仮に父親が60歳で、予定利率3.5%の10年払込み変額終身保険ですと、保険金額が3800万円となります。つまり総額2900万円払うことで、父親が死亡時には子供に3800万円が入ってくるということになります。
保険はある意味では「命を担保にした金融先物商品」ということです。60歳男性の平均余命(H13年簡易生命表)では21.72歳です。つまり総額2900万円(しかも10年積立)が22年で900万円の利息を生み出すという仕組みです。正確な利回り計算は、難しいと思いますが、仮に2900万円の一時金を0.250%(大口定期預金10年もの利率)で22年複利運用した場合の元利合計が、3087万円ですから、3800万円という数字はけっこう金融商品としてもメリットがあります。この保険は3800万円が基本保険金額(最低保証)で、運用次第でよりハイリターンが望めますので、今後もしインフレになったときにも対応が可能なプランです。
このように贈与税の低いところでの贈与で留めておくよりも、保険を噛ますことで、資金が大きく膨らむという、保険の効果が出せるわけです。更にもうひとつ凄いメリットがあります。この契約は、契約者が子供、被保険者が父親、受取人が子供という形態になりますが、父親が亡くなって子供が保険金額を受取った時の税金がどう処理されるか、そこにヒントがあります。
通常保険金を遺族が受取った時には、それ「みなし相続財産」ということで、相続税の対象になるのですが、このケースでは、契約者=子供=保険料の負担者ということになりますので、受取った保険金は「一時所得」ということになります。一時所得の計算は、収入金額からその収入を得るために支出した額を引いて、一時所得の基礎控除額50万円をさらに引いて、残った金額を半分にしたものを他の所得に合算する、という計算方法を取っています。
一般的には父親が自分に保険をかけて、妻または子を受取人にすることが多いと思います、要するに税金の区分上は、受取る際に、その保険契約の契約者(保険料の負担者)が誰かというのが、ポイントです。今挙げた例のように、一旦保険料を父から子が受取って、子が契約者・受取人になる場合は、一時所得ということになりますが、母が保険料を父から贈与され、契約者母・受取人子とし、父を被保険者として保険契約をした場合は、母が保険料負担者ですので、これは子が保険金を母から贈与されたということになり贈与税がかかりますので、お気をつけ下さい。
一時所得の話に戻ります。文章にすると少しややこしいので、先ほどの事例で計算してみましょう。保険差益は保険金額3800万円―保険料合計2900万円―(一時所得の非課税枠)50万円=850万円 この半分ですから425万円を所得として、その年の所得に合算して所得税を算出することになります。税率は所得によって変わりますが、仮に住民税も含めて30%だとしても、約130万円が保険金に対する税額ということになりましょう。ということは、この3800万円の保険で子供が入手できるのは3800万円―130万円=3670万円ということになります。最終的には手取り率96.6%ということになります。
贈与税を年間20万円×10年=200万円負担しているので、税率は安いといいながら、結構税金を納めることになるという考えもありますが、全体の比較論で考えてみると、当初父親の財産であった3100万円を、10年に亘って贈与して保険に替えて、最終的に個人の所得とした場合、3100万円→3670万円で資金の増加額は118%ということになりました。片や、3100万円を相続で子供が受取った時の手取りを計算してみましょう。相続財産がいくらあるかによって、相続税率が異なりますので、一概に比較することは難しいのですが、相続財産が3億円を超える資産家の方を想定すると、相続税率は50%と最高税率になります。つまり、3100万円の財産を受取ると、子供の手取り額は半分の1550万円ということになってしまいます。保険を使った生存相続対策を実施した場合と、そうでない場合では、3670万円―1550万円=2120万円も残る資金が違ってくるのです。
当然、与件によって効果額は異なりますが、このような情報を知っているのとそうでないのでは、大変な差が出ます。しかも上記の例は、親族一人に対する金額ですから、妻、子供、配偶者、孫と親族一同に、このプランを導入すると、10人の場合は文字通り桁が変わってしまう効果になります。贈与税は高い、予定利率の落ちた生命保険では、たいしたメリットが出ない、といった思い込みから脱却すると、このような面白いプランが出来ます。
相続対策というのは、資産規模が膨らむほど、少しの節税方法でも、税率の高いところにメリットとして影響が出てくるということになります。この保険を活用した生前相続は今試算しましたように、資金面で大変効果の高いものです。そのためには(1)贈与税の非課税枠を毎年利用する (2)最低税率の10%や20%のところで数多くの親族に贈与をする (3)予定利率の高い変額終身保険を活用する (4)相続税ではなく、2分の1課税の一時所得の区分に持ち込む為の契約上の知恵を使う(契約者を受贈人)とする といった一連のストーリーが必要です。
さらにこのプランを導入するにあたっては、事業を相続する人をプランから除き、プラン適用の相続人に対し、事業資産の相続に関しての「遺留分の放棄」をしてもらうことも、大事な要素になります。そういった全体像すなわちグランドデザインがあって、初めてより効果を発揮できるものとなるのです。贈与の方法一つ取りましても、対税務署対策という大変ナーバスな問題もあります。毎年、贈与契約書を取り交わすのは当然のこと、銀行預金の管理、保険料の収納方法、また生命保険料所得控除の申告は誰がするのかなど、細かい点でそれなりの心配りがいります。ハンコ一つとっても、ノウハウが必要です。
そのためは、税務知識のみならず、金融、保険、法律といった総合的な知識と、ある程度の経験がものを言います。いわゆるファイナンシャルプランニングの一環なのですが、最終的には保険のハンドリング技術が必要ですので、経験豊な保険コンサルタントにご相談されるのが最も安心ではないかと思います。プランの導入にあたっては、関係者の思いを一度ぶつけ合う局面も必要ではないかと思われます。父親が絶対的な指導力を発揮している場合を除き、多くの場合、金額の多寡だけが争点ということではなく、各人の思いがきちんとプランに反映していて、それを取り上げてもらえることで、解決できることも多いようです。やはり皆の意見をある程度確認しながらの作業になりましょう。
さきほどの相続放棄のことですが、具体的に言いますと、兄弟3人で、長男には事業用の資産(自社株式、不動産)を残し、その代わり残る二男三男に生前贈与を使った保険を残したとした場合、その評価額が長男1億円、二男三男各5000万円でも、片や会社を運営する為の資産で、片やキャッシュという場合、二男三男は十分納得することと思われます。そのようなことも踏まえ、父親の生前に事業や財産についての、プランを立てることで、一番安心できるのは「当の本人」であり、「これで安心して老後を過ごせる」という言葉に帰結する場合が多いのです。むろん、その恩恵は残された子供たちにとっても絶大です。確実にもらえるキャッシュを明示されて、嬉しくないはずがありません。
最終的にどのような手を打つかはともかく、事前に家族で財産問題を話し合っておけば、イザという時にはその通りにすれば良いわけですから、俗に言う「争族」ということにはなりにくいと思います。生命保険の効果は、事前にストーリーを組めるところがミソです。死んでから、出てきた保険金をどうするかという、従来型の保険設計ではなく、生前に税法の恩典を受けながら、相続問題を解決しておくやり方こそ、これからの相続対策、すなわち生前相続ではないかと思います。そのために必要な智恵は、保険+税務+民法+商法。それに経営計画、人生設計です。