13.オーナー一家のための生命保険プラン
オーナー経営の場合、会社のオーナーとしての立場=大株主(3分の2以上の株式保有)と経営者(代表取締役)の両面を維持する為の手を打たなくてはならないとう両方の側面から考えなければなりません。そのためには自社株を後継者にちゃんと譲ることができるように、相続税という税金リスクをいかに回避するかが大事なポイントです。
なぜ3分の2以上の株式保有が必要か、その点もきちんと理由を考えておかねばなりません。一般的には会社の経営権は過半数あればいいと思いがちです。しかし、それは商法上の規定による「取締役の解任」の手続きを見ると、それではいけないということが分かります。つまり取締役の選任は株主総会の過半数の賛成で可能になりますが、解任については特別決議(3分の2以上の賛成)が必要になるのです。社長であっても、役員会で代表権取締役を解任されることは良くある話で、そのような事態にならないよう取締役の解任権を、3分の2という株数保有で確保しておく必要があるわけです。仮にこれを下回ってしまい、その他の大口株主から要請されて受け入れた役員が、緊急動議で社長更迭を謀るようなことがおきますと、残念ながら、オーナーとて大株主だけど平の役員という立場に追いやられてしまいます。商法第260条ノ2で「取締役会の決議で、過半数の取締役が出席し、過半数が賛成すれば社長もクビにできる」内容になっていますし、更に同法第260条ノ2第2項では「議案に個人的な利害関係にある人物は、その決議に参加できない」ことになっているのです。つまり、社長の解任をするのであれば、社長はその取締役会には参加できないということです。
そこまで考えて、事業承継のことを考えている経営者がどれだけいるか疑問です。ほとんどの経営者は、ずっと家族だけで経営ができると思っているのではないでしょうか。まさか、取締役会で社長を解任されるなんてことがあるとは、まず考えてもみないことでしょうし、そんなことができるという認識も無い可能性が高いと思われます。
社長の代が変わり、外から取締役が入ってくるようなことがあって、後継者をその任にあらずとみなせば、いつでも長男を社長の座から放擲できるということです。後継者の息子に3分の2以上の株主としてのポジションがなければ、その恐れが強くなるわけです。事業承継の問題は、自社株=個人の相続問題と切り離してしてしまいがちで、会社の問題としての認識が薄いことが多いのですが、そこに大きな問題があることになります。ということは、自社株を次の代に引き継ぐ際に障害になることを、予めきちんと整理して、会社としてまたは個人として、手を打っておくということに他なりません。いわゆる「相続対策」の必要性は、まさにこの点にあります。
ほとんど事業承継というと、誰を後継者に据えるのか、いつバトンタッチするのかといった、表面的なことがメインになりますが、実際には、その裏にある、会社の支配者としての株式オーナーの立場と、経営者としての代表者の立場が不可分であるという点の認識が極めて重要で、その意味でも、相続対策をきちんとできなければ、事業承継もあったものではないということになります。
相続という、人間すべてに発生する問題についての認識は、えてして別の次元の問題にすり替えられてしまいがちです。つまり、いかに相続税を安くするか、という税金問題としてのみ大きく取り上げられてしまい、節税するにはこの方法がよいといった指南を求める方が多いのが実状かと思われます。
本質は相続「税」問題ではなく、「相続」問題なのです。本来オーナー会社の事業主の相続の問題は、「商法上の事業承継対策」がメインテーマであり、中心となる自社株相続を後継者に集約する為の「民法上の遺産分割=遺言、法定相続、代償分割など」が次なる課題です。しかる後に「税法上の相続税対策」つまり、いかに税金を安くするか、納税資金を準備するかということが出てくるわけです。商法と民法と税法のバランスのなかに、相続対策の要諦があります。一般的に相続対策というと、いかに相続税を押さえるかということをまず思い描くかと思いますが(もちろんそれは大事なことではありますが)、事業の安定的な継続を願う立場からは、今挙げた3つの法律をベースにした総合的な処方箋が必要です。 その際、自社株を3分の2以上確保する為の財源、をどうするかが、つまりおカネの問題が自然と大きなテーマになってきます。
相続税の問題を解決することが、最終的には事業承継の解決策でもあるということです。自社株を後継者が取得するにあたり、コストになる相続税の納税原資の確保(商法上の大株主の堅持)、他の相続人に代償分割(金銭で相続財産を調整)する際の資金の確保、有利な資産移転の方法などが具体的な方法論として出てきますが、結論を言えば、おカネの問題を解決しなければ、会社の安定的な経営はありえません。この観点から、単に死んだ時にどうするというだけでなく、全体的なスキームから再度生命保険というものを見つめなおす必要があります。
経営者が死亡した後の、会社の多くの問題をクリアする為には、その意味でも、なんといっても相続財産のなかに現金が必要になります。そこは当然「生命保険金」が主役として登場します。
突然の先代の死亡で、まず後継者に降りかかってくるのは、すぐに相続税を支払うことが出来ず、その延納手続きをしなければならないというのでは、大変なマイナスからの出発になります。会社の経営もおぼつかない中で、毎年多額の相続税を、会社ではなく個人で払いつづけるような苦労は、出来るものならしたくないはずです。そのような状況は、徒競走のスタートの時に、そのラインははるか後方にあるような状態といったらいいでしょう。
オーナー一家の保険プランは、事業を承継するという前提で、それに最も効果的に備えの出来た、まさに「相続対策プラン」でならなければならないということです。