15.経営戦略マターとしての法人生命保険
法人で終身保険に加入することのメリットについてお話しましょう。
オーナー会社においては、法人も個人も一体ということがいえますので、様々なリスクに対応するのに、どちらがやらねばならないということはありません。むしろ、法律や税金という観点から、有利な方で準備するというのが正解ではないかと思います。終身保険も従来は、個人で加入しておくのが通常のあり方のように言われています。その背景としては、終身保険の経理処理が全額資産計上なので、法人で計上するメリットがない、というのが本音のところではないかと思います。でもこの理屈も実は間違っています。それは経費を入口で払うか、出口でその分収益が多く出るかの違いであって、損金性の保険は節税できるという、誤った見解に基づいているといっていいかと思います。
一部の保険の営業マンが、節税できてお得というようなことを言うようですが、そんなことが簡単にできるということであれば、それこそみんな保険を使って課税回避を図ることができるわけですから、国は税金を取り損ねることになります。確かに将来解約時に大きなリターンのある保険を経費計上することで、利益の繰延べといいますか、含み資産を作ることは可能です。でもそれは、出口(解約)のところで、解約益を相殺するような手段を予め想定していなければ、出口でそれまでの含みを全部吐き出して、課税されるということにしかすぎません。
ということで、損金で処理できる保険は、出口(解約時)がちょうど役員の勇退時になることが最も効果的です。法人で「含み資産」化したものを、退職時に取り出して、「退職金という経費」と相殺させることで、退職時の大きな費用を保険解約益が打ち消してくれるので、安心して退職金が受取れます。当然益出しと同時にキャッシュフローもくっついてきますので、有税で役員退職引当をしているのとは、根本的に異なるのです。保険で退職金の準備するのは会計的にも経費の平準化ができて、大変具合がいいことになります。そのためにはどんな保険が最もいいか、ということですが。経費で落とせる割合が多くて、退職時にできるだけ高い返戻率で保険料が返ってきる保険ということに尽きます。
話が経費の方へ行ってしまいましたが、先ほど終身保険の法人加入の意義について、元に戻ります。個人で終身保険に入りますと、その保険料は役員報酬で受取ったものから所得税住民税を払った残りで、負担することになります。1800万円以上の年収に係る所得税率は37%、さらに住民税11.7%を加算しますので、まず報酬のうち、半分は税金を払ってから、その残りで保険料を払うことになります。そしてその保険金の受取人は、みなし相続財産として相続税を負担します。これを事例で考えて見ます。
被保険者40歳、60歳払込変額終身保険、年間保険料294万円
総額保険料5880万円
(1) 個人契約の終身保険1億円 総保険料5880万円
保険料の捻出の為の役員報酬額9800万円
役員報酬9800万円-所得税住民税3920万円(率を40%と仮定)
=保険料5880円
相続税5000万円
収支 役員報酬9800万円―所得税住民税3920万円―
保険料5880万円+保険金1億円―相続税5000万円
(最高50%摘要) = 資金残高5000万円
これを法人で加入し、死亡退職金として1億円を相続人に渡した場合は以下の通り。
(2) 法人の終身保険1億円 総保険料5880万円
保険差益4120万円
収支 役員報酬9800万円―所得税住民税3920万円+
死亡退職金1億円―相続税5000万円 = 資金残高10880万円
このように法人で加入して、保険金を死亡退職金として渡すと、最終的な資金残高は個人で加入した時より、はるかに多いものとなります。(本件の場合)
また法人で加入した場合、最後に死亡退職金として2度目の退職金を支払うことが可能になります。法人契約は全額資産計上ということになり、会計上は流動資産の預金勘定(銀行口座)を固定資産の保険料積立金(保険口座)に移動させることに他ならず、総資産には一切変動がありません。つまり言い換えると、金利のほとんどつかない預金を保険会社に預け替えするということと同じことになります。つまり確実に保険金として倍返しになる保険に、預金金利相当分でその保障を設定できるということです。
要は個人で加入しなくても法人で加入することで、よりメリットがあるということです。その最大のメリットは、最終的に保険金を退職金として渡せるということになりますが、あとは所得税住民税の税率と、相続税の税率で、どちらが有利かということもありますので、一概に法人が得ともいえないかもしれません。
しかしせっかく法人を所有しておられるオーナーの立場なのですから、これを生かさない手はないのではないかと思います。勇退退職金をきちんととって、即ち最終的な事業承継・相続も法人で手を打っておいて、というのが理想の姿です。そのためにも、各保険の効果を算定し、経営計画のなかに織り込むことが必要です。単に大きな保険に加入しているから大丈夫ではなく、退職時にはこうする、自分が死んだときにはこういう準備ができている、といったストーリーができているから大丈夫という風にしたいものです。