21.新しい生命保険にシフトすると損すると思っている経営者へ
保険の営業マンに、より内容の良いものにシフトしてはと勧められることが多いと思います。しかしそのような場合、若い時に加入していて、保険料が安いので、現年齢で乗り換えるのは損なのではないかという疑念が生じます。このように、古いものから新しいものへ変える時には、いろいろ考えると躊躇してしまいがちです。
保険もかつては予定利率が高く、保険料も現在よりかなり安く設定できました。また年齢が経つと保険料が当然上がりますので、より保険料に影響が出てくることになります。さて、古い保険のままにしておくのか、新しいものにすべきか、どのような基準で判断したらよいのでしょうか。
これはまさにケースバイケースということに尽きます。例えば現在加入中の保険が、更新型で10年ごとに保険料がアップしていくタイプのもので、新規に加入するものが95歳まで長期の保障を取るのもであった場合、この場合はおそらく新しいタイプに移行した方が、最終的な実質の保険料(保険料総額―解約返戻金)ではかなりメリットが多いと思います。片や、終身型の保険に加入しており、これを一旦止めて他の終身型の保険に行く場合、この場合は加入時の予定利率がいくらになっているかで、保険料の額が決まりますので、現状からいいますとむしろ保険料の負担が増えることが考えられます。ただし、この場合でも、定額終身保険(保険金額が固定のもの)から、変額終身保険(基本保険金額は固定でありながら、保険料を運用するファンドの成績によっては将来受取る保険金が増加する可能性のある保険)へシフトする場合、これは大変大きなメリットがある場合があります。(というのは、変額保険の予定利率が現在でも3.5%と高止まりしているからです)加入時期が5年以内の定額終身保険から変額終身保険にシフトしますと、かなりのケースで保険料を圧縮することが可能になると思われます。
このように、保険の見直しで、従前のものを維持すべきか、新しいものにシフトすべきかという判断は、まるでエアコンや冷蔵庫を買い換えるのと同じような議論になります。家電製品の技術革新のスピードがあまりに早く、例えば5年前のエアコンと今日のエアコンでは電気代が数十%も安くなるといったことは、良くあることです。車でみても、ハイブリッド型のものは燃費がそれこそ半分というケースもあるのではないでしょうか。今までも燃費の悪い車に乗りつづけて、しかも安全性快適性にも問題があり、10年経つと中古市場ではまったく価値がない、という車のままでいるのか、それとも燃費は半分、最先端の技術により安全で乗り疲れのしない車に乗って、10年後には、まだ市場で価値のある車に買い換える、このようなケースと、保険の見直しによるシフトと、例えは少し悪いですが、かなり似ているような感じがします。
古い保険をそのままにしておくのは、燃費の悪い車に乗りつづけるのと同じような場合がありますので、ここはそのままで最終目的地までいった場合と、新しい保険にシフトした場合の、両方のシミュレーションを出して、それを比較して検討することをお勧めします。
これは現状のまま行ったケースをAとして、それを他のプランに置き換えた場合をケースB、Cとして、それぞれの得失やパフォーマンスを一覧表にすることで検討が容易になります。新しいプランでいった場合のコストと、現状のコストがかなり違うということが判明したら、これは迷わずシフトすべきです。これは機会損失原価という言葉にも置き換えられます。手を打たないことで、機会損失を発生させるとしたら、経営者としては背任的な行為とも言えます。要はその事実を知りながら、手を打たなかったということなのですから。
保険料のわずかな差は、長く払いつづけることで、最終的には驚くべき差が生じます。月々の保険料の10万円の差は年間120万円、10年では1200万円の差額になります。保険会社によって解約返戻率が10%位違うというのは稀なことではありません。総額保険料5,000万円の返戻率10%の差は、出口では500万円の差額です。その500万円の誤差(経常利益カウント)は、経常利益率5%の会社においては500万円÷5%=1億円の売上高に匹敵するのです。保険も大事な会社の金融資産です。最小投資で最大リターンが得られるよう、選択に当たっては、慎重かつ大胆な対応が必要です。