26.会社の社長に対する借入金(仮払金)を生命保険で精算する手法
会社の経営者で、永年会社の売上向上のために様々な個人の資金を使ってきた社長というのは結構多いようです。経理上処理できないものも多く、その場合、やむを得ず毎期決算では、会社から社長個人への貸付という方法を取らざるを得ないようです。その額が積もり積もって、数千万円になってしまったケースもあります。
会社もようやく軌道に乗り、数年後に株式の公開をしようというような場合、当然そのためにはこの貸付金を精算する必要が出てきます。このような時の精算方法が、保険による債務移転の手法です。
ここで問題になるのは、会社から借入れをしているということに加え、返済の為の現金がすぐに捻出できないということです。そこで考えられるのが、社長の借金の肩代わりということになります。簡単に言えば、社長の債務を誰かが引き受けてくれれば、問題は解決できるということです。手っ取り早く、個人取引をしている銀行から個人で融資を受けて、会社に返せばいいということになります。
しかし実際には、個人へは住宅ローン以外では、数千万円という単位での貸付はなかなか得られないというのが、ネックです。個人資産(住宅)があっても、担保価値そのものが低く、十分な融資額に結びつき難いのが現状です。そこで、銀行の融資以外の方法があるかということになりますが、保険の仕組みで一部問題を解決できるプログラムがあり、以下のようなステップをとります。
(1) 社長が金融機関(クレジット会社の方が可能性が高い)から2000万円の個人融資(法人を連帯保証人とします)を受け、会社に返済します。
(2) 会社契約で社長を被保険者とした「終身保険」または「養老保険」に加入します。(保険料は全期前納とします)
(3) この間、(1)の保険金の権利に関し金融機関が優先して受取るという「質権」を設定します。
(4) 金融機関への月々の返済をするため、会社から受取る役員報酬を増額します。(増加分の役員報酬は会社の経費、所得税は社長の個人負担)
(5) 以上により、会社の社長に対する貸付金(社長の借入金)はなくなり、万一の時には、保険金が金融機関に入り、社長の金融機関に対する債務も全くゼロになります。
確かにこの方法によって、会社と社長間の取引が、金融機関と社長間の取引になり、肩代わりされたということがいえましょう。その際のメリットは、(1)債権債務の解消により、公開準備が整う (2)会社決算上は資産であっても社長に対する債権は、換金性のない不良債権という評価を銀行から受けてしまい、会社の銀行融資申込み時の障害になるといった、阻害要件がなくなる (3)退職時に精算するしかなかったものが、金融機関への月々の返済という風に、精算に時間をかけてすることが可能(かつ死亡時には生命保険で一括精算できリスクが逓減)逆に、デメリットとしては、社長の金利負担が結構重い(=会社負担大)ということになります。
このようなスキームで、社長が個人的に会社から借りているお金を金融機関(クレジット会社)に肩代わりさせることは可能です。その肩代りの為の担保を保険の形にするというやり方は、確かに一つの智恵ではあるのですが、その返済にあたり個々人の所得を経由する時の所得税の負担がネックといいますか、もったいないので、株式の公開などの特別な事情がないのであれば、社長の勇退退職金や死亡退職金と相殺するような方法がより効果的ではないかと思います。その場合の保険選択は以下の通りです。
勇退退職時精算 (1)法人契約で、社長に全損逓増定期保険を設定 (2)勇退時に借入額相当以上の解約返戻金が出るようにする (3)保険の解約返戻金を原資として、退職金支給時に借入金と相殺をする (勇退退職金は非課税枠が多い為、かなり所得税が少なくて済む)
死亡退職時精算 (1)変額終身保険を社長に設定(金額は借入額相当) (2)死亡退職時に借入金と相殺するこの方法であれば、予定利率3.5%の商品を選択することで、保険料総額が死亡保険金の半分くらいで、死亡保障を取ることができる可能性が高く(年齢によってパフォーマンスはまちまち)、より資金効果が高い。
いずれのプランを選択しても、認定利息(税務計算上の利息)4.5%相当の社長の負担がでてきます。この分については役員報酬を増額して対応するしかないでしょう。