33.相続放棄をした場合の生命保険金の行方
中小企業では、会社の債務に対し社長が個人的に保証人になっているケースがよくあります。この状態で社長が亡くなると、社長個人の債務があきらかに遺産よりも多い場合、相続人は相続の放棄をすることになるかと思いますし、それは有効な手段です。相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所に「相続放棄申請書」を提出することが要件ですが、これは全員でなく単独でも可能です。(民法938条)さてその場合、保険金は一体誰のものになるのでしょうか。これは生命保険の性格上、保険金は相続財産ではないということを、まず理解する必要があります。商法上、「他人のためにする保険契約」(商法675条)ということになり、受取人自身の固有の財産ということになるのです。つまり、相続放棄をするということは被相続人の財産を受け継ぐことを拒否するということであり、その効果が相続人の自分の財産(保険金)に及ぶはずはありませんので、保険金は自分の物とすることが可能です。
法人契約の保険金はどのような処理になるかといいますと、当然保険金の受取りは会社になり、それは会社の債務弁済のために使われることになりますので、弁済が済んだ後、余剰部分があれば死亡退職金といった形で遺族が受取ることもできましょうが、まずそのような余裕は無いことの方が多いと思われます。なお、法人契約の保険金を受取った時の会社の経理処理は、保険金額からその保険にかかる保険料積立金の額(全額経費計上の保険であれば当然積立金はゼロ)を引いた額が、営業外収益または特別利益として利益計上されます。ということは保険金全額を借入金の返済原資にはできない場合がありますので、保険金額の設定には要注意です。
会社で大きな債務がある場合の保険契約のあり方は、上記のように法人契約とは別立てで個人契をすることが望まれます。経営者の家族を債務保証のリスクから除外するには、相続放棄、個人契約の保険金受取りといったスキームが有効になるということが、お分かりいただけたかと思います。
ただここで注意すべきことは、社長夫人が連帯保証人になっていないということです。仮に連帯保証人になっていた場合、相続放棄をしても連帯保証人の地位を失うことはありませんので、保険金をもって債務の弁済にあてる義務が生じます。一家の主を失い、債務の弁済の為、せっかく生活資金として用意した保険金をも失うのは、なんともやりきれないことになります。
相続放棄をした場合に保険金を受取りますと、相続人あたり500万円×相続人の非課税額が控除されませんので、保険金丸々が相続税の課税対象になってしまいます。しかし、相続税のあるなしより、保険金そのものが債務の弁済にあてられるか、固有の財産として受取れるか、の方がよっぽど大事なことになります。会社の債務に対し個人補償している場合、個人でもきちんと保険契約することは、真のリスク管理上は大変重要です。