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医療法人化するメリットとデメリットは?税対策につながる理由をわかりやすく解説

税対策
医療法人化するメリットとデメリットは?税対策につながる理由をわかりやすく解説

公開日 2022年11月13日 更新日 2023年3月15日

クリニックの経営が軌道に乗り、そろそろ医療法人にしたいと考えているけれど、タイミングが分からない……。

医療法人化はメリットの多い方法ですが、タイミングを誤ると社会保険料や各専門家に支払う顧問料などの経費だけが増えてしまうかもしれません。

この記事では、医療法人化するメリットとデメリットのほか、個人病院から医療法人化するベストなタイミングについて解説します。

医療法人とは

医療法人とは、病院※1・医師、歯科医師が常時勤務する診療所※2・介護老人保健施設の開設を目的に設立される法人のことです。医療法人を設立するためには、定款あるいは寄付行為を作成し、診療に必要な施設や財産を有して、各都道府県知事からの認可を受ける必要があります。医療法人ではない個人・法人は、医療法人を称する法人を立ち上げることができません。

※1:病院・・・20床以上のベッドがある医療機関

※2:診療所・・・ベッドが19床以下の医療機関

医療法人と個人病院の違い

医療法人には医療法が適用され、個人事業主で病院や診療所を運営する場合とは異なる規制や義務があります。

医療法人の場合、医療法第7条6項により、営利目的での開設に許可を与えないことができると定めており、医療法人に非営利性が求められていることが分かります。しかし個人病院には医療法は適用されないので、営利目的の活動が可能です。

個人病院の場合、開設できる施設数は1カ所のみで、開設できる施設は病院と診療所に限定されます。

それに対して医療法人は、国民に健康維持に寄与することを目的としているため複数施設の開設が可能です。さらに病院・診療所だけではなく介護老人保健施設などの施設も展開できることから、医療の高度化が目指せます。

【医療法人と個人病院の違い】

医療法人 個人病院
開設方法 都道府県知事の認可が必須 開業に必要な書類提出
開設できる数 分院も可能 1つ
登記 必要 不要
決算書の提出 必要 不要
役員報酬 1年固定で自由に決定 なし

参照元:日本医療法人協会

医療法人の種類

医療法人には多くの種類がありますが、まず大きく社団医療法人と財団の医療法人に分けられ、持分の有無などでさらに細分化されます。

【医療法人の区分】

社団 持分あり 経過措置型医療法人(※2007年以降新規設立はできない)
持分なし 基本拠出型医療法人
社会医療法人
特定医療法人
財団 社会医療法人
特定医療法人

社団と財団の違い

社団とは何らかの目的を持った人の集まりに法人格を付与したもので、社員の集まりで組織されます。一方、財団とはお金の集まりのことで、個人や法人がお金を寄付することで組織されます。

財産はあるけれど時間がないような場合、財団法人に寄付をすれば、財産を目的通りに生かすことが可能です。財団は解散しても、寄付した人の元には戻らず、国や、地方公共団体、その他医療法人などに引き継がれます。

厚生労働省が発表している令和2年度都道府県別医療法人数のデータによると、医療法人の約99.4%が社団で、財団は0.6%です。

持分の有無

社団法人は持分の有無によってさらに分類されます。

医療法人に出資した人は、医療法人の財産に対して所有権を持つことができますが、所有権は出資した金額に比例します(出資しなくても社員にはなれます)。医療法人の財産に対して、出資した金額に応じて有する所有権のことを出資持分と言い、持分ありとは、社員の退社に伴い出資持分が払い出されること。持分なしとは出資持分の払い出しがないことです。

ただし、2007年以降、新しく医療法人を設立する場合、持分ありの医療法人は設立できなくなっています。

医療法人の種類ごとの違い

医療法人はさらに以下のように細かく分類できます。

【医療法人の種類】

  • 経過措置型医療法人:2007年以前に設立された持分ありの社団医療法人
  • 基金拠出型医療法人:定款の定めにより、基金制度※3を採用している社団医療法人
  • 社会医療法人(医療法人社団):医療法の定める要件を満たし、都道府県知事の認可を受けた社団または財団
  • 特定医療法人:租税特別措置法を根拠としている公共性の高い社団または財団、法人税の軽減税率が適用される

現在、経過措置型医療法人を新設することはできませんが、2007年以前に設立していたものは、当面の存続が認められています(経過措置)。

※3:基金制度を採用している社団医療法人は、基金拠出者に対して拠出時の財産に相当する金銭の変換義務を負います。

医療法人化のメリット

医療法人化するメリットは、主に以下の5つです。

【医療法人化のメリット】

  • 税金対策になる
  • 事業展開がしやすい
  • 事業承継・相続がしやすい
  • 退職金の準備ができる
  • 資金調達がしやすい

医療法人化することで税金対策ができるほか、事業展開や相続を考えている方、会社の信用を高めて、資金調達をスムーズにしたい方などはメリットになるでしょう。

税金対策になる

医療法人化が税金対策になるのは以下のような理由からです。

それぞれ詳しく解説します。

【医療法人化が税金対策になる理由】

  • 課税率が低くなる
  • 控除が受けられる
  • 所得を分散して課税額を低くできる
  • 欠損金を10年繰り越せる
  • 法人向けの保険を経費にできる

課税率が低くなる

開業医病院など個人の病院の場合、課税所得金額※4に対して最高45%の税率がかかります。さらに住民税10%も加えると税率は55%になります。

一方、医療法人の場合は法人税が適用されます。法人税の税率は医療法人の場合、課税所得金額800万円以下が19%、800万円超でも23.2%。特定医療法人の場合は課税所得800万円以下、800万円超いずれも税率は19%です。

【医療法人の税率】

医療法人※5 特別医療法人
年間課税所得800万円以下 19% 19%
年間課税所得800万円超 23.2%

このように法人化によって課税される税率が低ければ、手元に残るお金が多くなるのでメリットになります。

※4:収入-経費からさらに基礎控除、医療費控除、社会保険料控除など該当する控除をすべて差し引いた金額。法人の場合は、益金-損金が課税所得金額になります。

※5:資本金1億円以上の医療法人は一律23.2%

控除が受けられる

医療法人になると、個人病院のように事業所得ではなく、医療法人から給与として役員報酬が支払われます。簡単に言えば、勤務医が病院から給与を受け取る場合と同じ扱いです。給与で受け取ると、給与所得控除が受けられるので、個人の税金が軽減されます。

所得を分散して課税額を低くできる

給与として受け取って、給与所得控除を受けたとしても、給与を1人に集中させると個人に相応の所得税がかかってしまいます。そこで家族を理事などに入れて、給与を分散して支払うと、それぞれ給与所得控除が利用可能です。

さらに、所得税率は課税所得金額が大きい部分に対して適用される税率も高くなる仕組みですから、分散させれば各人の税率も抑えられます。

欠損金を10年繰り越せる

医療法人を運営していると赤字が発生(欠損金が発生)することがあるかもしれません。

個人病院の場合、欠損金の繰り越しができるのは3年までです。医療法人なら、欠損金を欠損が発生した翌年度以降10年にわたって繰り越すことが可能です(平成30年4月以前に設立した法人は9年)。

【前年に1,000万円赤字になり、以降100万円ずつ黒字が出た場合(個人病院)】

1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 9年目 10年目
黒字額 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100
欠損金の繰越し ▲100 ▲100 ▲100 繰り越しできない
課税所得金額 0 0 0 100 100 100 100 100 100 100

【前年に1,000万円赤字になり、以降100万円ずつ黒字が出た場合(医療法人)】

1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 9年目 10年目
黒字額 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100
欠損金の繰越し ▲100 ▲100 ▲100 ▲100 ▲100 ▲100 ▲100 ▲100 ▲100 ▲100
課税所得金額 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

法人向け保険を経費にできる

医療法人化することで、法人向け保険の保険料の一部を損金扱いにすることができます。

病院経営では、個人・法人に関係なく院長の役割は重要です。院長に万が一のことがあると、経営が悪化して従業員や取引業者への支払いが滞ることがあるかもしれません。

そのため大きな生命保険に加入するケースも考えられるので、保険料を経費にできるのはメリットと言えます。

事業展開がしやすい

先に述べましたが、医療法人は複数施設の開設が可能です。また、介護老人保健施設などの施設も開設ができるため、事業展開がしやすいメリットがあります。

事業承継・相続がしやすい

個人病院が、子どもにクリニックを継がせたいときは多額の相続税がかかる可能性があります。

しかし、医療法人を継承・相続する場合、持分なしの医療法人であれば、理事長を変更するだけで継承や相続ができます。

退職金の準備ができる

医療法人の場合、法人で退職金を蓄えることが可能です。さらに、退職金を受け取る段階で退職所得控除が利用できます。退職所得控除は、以下の計算式で計算をします。

【退職所得控除の計算式】

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数

80万円に満たないときは80万円

20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

【退職所得控除の計算例】勤続年数30年の場合】

上記の計算例のとおり、勤続30年なら退職金のうち1,500万円までは非課税になります。

個人病院の場合、退職金制度がないため自分で積み立てやiDeCoなども活用しながら自分で退職金を用意しなければなりません。

資金調達がしやすい

医療法人は、

  • 設立の際に都道府県知事の厳正な審査を受けていること
  • 法人会計によって個人資産と法人資産が分かれていて財務状況が明らかであること

などから、社会的信用が高い傾向があります。

したがって、医療法人は個人病院より比較的銀行融資を受けやすいでしょう。

医療法人化のデメリット

次に医療法人化のデメリットを紹介します。

【医療法人化のデメリット】

  • 書類作成などの事務が増える
  • 社会保険の加入が必須になる
  • 院長の月収が固定される
  • 都道府県に対する責務が生じる

医療法人化に伴い、管理業務・事務コストが発生する点には注意が必要です。

書類作成などの事務が増える

医療法人化すると、理事会の議事録作成や、社員総会の資料作成、毎年の事業報告、法人化に伴う管理業務など、さまざまな事務作業が増えます。

個人病院であれば必要がない事務作業・コストが増えると言う点はデメリットでしょう。

社会保険の加入が必須になる

医療法人などの法人は、従業員の人数にかかわらず、健康保険と厚生年金保険への加入が義務付けられています。

このように法律で加入が義務付けられている事業所を強制事業所と言います。健康保険料と厚生年金保険料は、労使折半であることから、役員と従業員双方に支出が発生します。

医師の月収が固定される

個人病院の場合は、毎月の支払いや納税分などを確保して残った金額が手取り収入となり、自由に使うことができます。しかし医療法人の場合、報酬はある程度固定化されており、頻繁に変更することはできません。

ただし法人の場合、法人保険の契約者貸付制度を活用すれば、保険の解約返戻金のうち一定金額までお金を借りることができます。契約者貸付制度なら急にお金が必要になっても、保険を解約したり、金融機関の審査を受けたりする必要はありません。

都道府県に対する責務が生じる

医療法人は都道府県に認可を受けて開設していることから、定期的に都道府県に対する書類提出などの責務が生じます。主な内容としては次のようなものがあります。

  • 事業報告書、財産目録、賃借対照表、損益計算書、監事の監査報告書の提出(会計年度終了後3ヶ月以内)
  • 資産総額の変更登記(会計年度終了後2ヶ月以内)
  • 重任の場合役員重任の届出(2年に1回)

医療法人化した方がいい病院とは?

医療法人はメリットも多いので、開業してすぐに法人化を考える人もいるかもしれません。しかし医療法人化すると、従業員の社会保険料負担、事務コスト負担など、それなりに費用も膨らみます。

法人化は適切なタイミングで行なうことが大切です。医療法人化した方がいい主な条件は以下の4つです。

【医療法人化した方がいい条件】

  • 社会保険診療収入が5,000万円超である
  • 自由診療を含めた総収入が7,000万円超である
  • 事業拡大を検討している
  • 事業承継を検討している

上記要件のうち、いずれか2つを満たすと概算経費という特例措置が使えなくなり、節税効果が薄れてしまいます。

また上記のように、医療法人ならではのメリットから、事業拡大や事業継承を検討している人も医療法人化を検討すると良いでしょう。

まとめ

個人病院から医療法人化する際には、メリットとデメリットがあります。

医療法人化するタイミングを誤ると、会社規模の割に経費が増えてしまう可能性もあるので、社会保険診療収入5,000万円超になったときや、自由診療を含めた総収入が7,000万円超になったときなど適切なタイミングで法人化を検討しましょう。

医療法人化すると、法人保険の保険料の一部が損金算入できます。そのため法人保険に加入をすると税金対策をしながら、万が一の保障も同時に備えられるというメリットがあります。

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当記事がご参考になれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。